ら、まるできつねにでもつままれたように、黙々と考え沈んでいる町奴《まちやっこ》たちのところへ、じつに伝法な、だが、むしろぶきみなくらいに物静かな尋問の矢が向けられました。
「うすみっともねえつらしているじゃねえかよ。まるで、伸びたうどんみてえじゃねえか。近ごろそんなつらは、あんまり江戸ではやらねえぜ。え! おい、大将、まさかに、おまえさん、おいらがだれだか知らねえわけじゃあるめえね」
「…………」
「何をきょとんとした顔しているんだ。おいらがだれだか知らねえわけじゃあるめえねといってきいてるんだよ。え! おい! 奴《やっこ》の大将。この巻き羽織を見ただけでも、おめえたちにはちっと苦手の八丁堀衆《はっちょうぼりしゅう》ってえことがわかるはずだ。黙っているのは知らねえのかい」
「フフン」
ところが、おこったようにふり向くと、親分らしいのがフフンとあざわらいながら、ふらちなことにもひどくけんまくが荒いのです。
「巻き羽織がどうしたとおっしゃるんです! いいや、やにわと権柄ずくに、おかしなことをおっしゃいますが、あんたの名まえとやらをあっしが知らねえといったらどうなさるんです」
「ほほう、陰
前へ
次へ
全56ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング