いんですよ。たいへんなことになったんだから、早く起きなせえよ」
「…………」
「じれってえな。だれに頼まれてそんなに寝るんでしょうね。ね、ちょっと! たいへんですよ。たいへんですよ。途方もねえことになったんだから、ちょっと起きなせえよ」
 声に油をかけながらしきりとやかましく鳴りたてたので、不承不承に起き上がりながらひょいと見ながめると、これはまたどうしたことか、ただやかましく起こしに来たと思いのほかに、あの伝六がじつになんともかとも困りきったといった顔つきで、いいようもなくぶかっこうな手つきをしながら、後生大事と赤ん坊をひとり抱いているのです。
「ほほう。珍しいものをかっ払ってきたね。豪儀なことに、目も鼻もちゃんと一人まえについているじゃねえか。どうやら、人間の子のようだな」
「またそれだ。どこまで変なことばかりいうんだろうね。もっと人並みの口ゃきけねえんですかよ。抱いてくださりゃいいんだ。忙しいんだから、早くこいつを受け取っておくんなせえよ」
「起きぬけにそうがんがんいうな。――ああ、ブルブル――ほら、ほら、こっちだよ。こっちだよ。おじちゃんの顔はこっちだよ。ああ、ブルブル。――わ
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