どもが奇怪なのです。ただの捨て子か? それとも、何か秘密があるか?――。
「なぞを解くかぎはこれだな」
 いうように名人はそろりそろりとあごをなでなで、何か眼《がん》のネタになるものはないかと、鋭く目を光らしました。巨細《こさい》に見調べると、まんなかの女の子の着物の継ぎはぎが、いかにもぶ細工なのです。しまがらのおそろしく違ったところがあるかと思えば、縫いめが曲がっていたり、ゆがんでいたり、はなはだしくふてぎわで、針の道を知らぬ男目から判断しても、おそらくこの繕い主はまだとしはのいかぬいたいけな子どもか、でなくばぶ器用な男手でやったものか、二つのうちのどちらかでした。しかも、さらに不審なのは、その子ばかりが敷き物を敷いているのです。その敷き物がまたただの敷き物ではなく、一枚は七つか八つの男物の、一枚は十か十一、二歳くらいの女物の、両方ともにあかじみたぼろぼろの子どもばんてんでした。いや、そればかりではない。よくよく見ると、そのはんてんの端にくるんでまくらがしてあるのでした。そのまくらもまたありきたりのまくらではなく、捨てるときにぬぎ捨てて、まにあわせのまくら代わりにしておいたらしい同じ子どものぞうりなのです。それも七、八つくらいと、十一、二歳くらいの大小二足。
「ふふうむな。どうやら、そろそろと――」
「ありがてえ。つきましたかい。え? ちょっと! もう眼《がん》がつきましたかい」
「やかましいや。黙ってろ」
 しかりながら、片手を伸ばして取り出そうとしたとたん――、ぱさりとそのぞうりの間から地に落ちたいぶかしいひと品が、強く名人の目を射ぬきました。何のまじないに使ったものか、青竹にはさんだ祈願用の小さな畳紙《たとうがみ》です。のみならず、その小さな玉串《たまぐし》の表には、達者な筆で鬼子母神と書かれてあるのでした。
「はあてね。まるでこりゃなぞなぞの判じ物みてえじゃござんせんか。鬼子母神といや、昔から子どもの守り神と相場が決まってるんだが、それにしても、ぞうりの間に畳御幣をはさんでおくたア、ちっと風変わりじゃござんせんかい。まさかに、この赤ん坊が年ごろの娘になったら、ぞうり取りの嫁にしてくれろってえなぞじゃありますまいね」
「…………」
「え? ちょっと! ね、だんな! かなわねえな。すこうし眼《がん》がつきかけると、じきにむっつり屋の奥の手を出すんだからね。なにもあっしだって、ひとりごとをいうために生まれてきたんじゃねえんだ。ああでもねえ、こうでもねえと、いろいろやかましくしゃべっているうちにゃ、だんなの眼もはっきりついてくるだろうと思って、せいぜい年季を入れているんですよ。ね、ちょっと。ええ? だんな!」
 うるさくいうのを、名人は柳に風と聞き流しながら、しきりと右の畳御幣を朝日にすかしつつ見ながめていましたが、ふとそのとき、ありありと目に映ったのは、折りたたんだ紙の中にも何か書いてあるらしい墨の跡でした。これは書いてあるのがあたりまえです。畳御幣は中にご立願《りゅうがん》の文句を書いてたたみ込むのが普通ですから、墨の跡の見えるのが当然ですが、しかしその書かれてあった祈願の文句なるものが、すこぶる不審でした。
「母《かあ》よ。みんなひもじくてならねえんだ。はやくかえってきてくんな」
 そう書いてあるのです。それも、くねくねと曲がりくねった金くぎ流のおぼつかない文字で、一読|肺腑《はいふ》をえぐるような悲しい訴えと祈願が、たどたどしげに書いてあるのでした。――せつな! 名人がさわやかに微笑すると、なに思ったか不意にきき尋ねました。
「みなの衆! 隠しだてしてはなりませぬぞ。この子のしゃぶっている棒あめは、どなたが与えたのじゃ」
「…………」
「だれぞかわいそうに思うて恵んだ者があるであろう。とがめるのではない。ちと必要があっておききしたいのじゃ。見れば、しゃぶらしてからまだ間もないようじゃが、どなたがお恵みなすったのじゃ」
「いえ、あの、それはだれも恵んだのではござりませぬ。初めからしゃぶっていたのでござります」
 いっぱいの人だかりを押し分けながら進み出て、てがら顔に答えたのは、このあたりの者らしい町家のご新造でした。
「わたしがいちばん最初にこの捨て子を見つけた当人でござりますゆえよく存じておりますが、初めからまんなかのその子ばかりがしゃぶっておりましてござります」
「しかとさようか」
「あい、うそ偽りではござりませぬ。わたしが見つけたほんのすぐまえにでも与えたものとみえて、まだまるのままのを持ってでござんした」
 聞くや同時です。とつぜん、ずばりと生きのいい右門流があいきょう者のところへ飛びました。
「それがわかりゃ、もうぞうさはあるめえ。はだしではんてんを着ていねえ子どもがふたり、どこかそこらの人込みの中に隠れてい
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