るにちげえあるめえから、手分けしておまえもいっしょに捜しな」
「フェ……?」
「何をとぼけた顔しているんだ。おめえにゃこの畳御幣の文句が見えねえのかよ。母よ。みんなひもじくてならねえんだ。早くかえってきてくんなと、読んだだけでもまぶたの奥が熱くなるようないじらしい文句がけえてあるじゃねえか。しゃぶっているそのあめも、ついでによく見ろよ。だれも恵んだ者がねえにかかわらず、まだ三つ一も減っちゃいねえところを察すると、ぞうりを脱いで、はんてんを脱いで、あめをしゃぶらせて、おっかあは来ねえか、母は帰らねえかと、首を長くしながら様子を探っているこの畳紙の文句の書き手の子どもがふたり、どこかに隠れているはずだよ。とち狂っていねえで、早く捜しな」
「なるほどね。いわれてみりゃ、おおきにそれにちげえねえや。べらぼうめ、なんて人騒がせなまねしやがるんでしょうね。――やい! どきな! どきな! 見せ物じゃねえんだ。見せ物に捨て子したんじゃねえんだよ。おっかあがけえってくるように捨て子をしたと、おらのだんなが狂いのねえ眼をおつけあそばしたんだ。どきな! どきな!」
「…………」
「じゃまっけだな。そこんところに毛ずねをまる出しにして伸び上がっているのっぽは、どこの野郎だ。おめえなんぞの毛ずねに用はねえんだよ。はだしの子どもを捜しているんだ。はんてんを着ていねえ子どもを捜しているんだよ。どきな! どきな!」
ここをせんどとやかましくどなりながら、あちらに泳ぎ、こちらに泳いで、しきりと人込みをかき分け捜し歩いていたかとみえたが、果然名人の推断が的中したとみえて、けたたましくあいきょう者の呼びたてる声が聞こえました。
「ちくしょうッ。いやがったッ、いやがったッ。ここんところに餓鬼めが二匹震えているんですよ」
声に、どっとひしめきたったやじうまたちを押し分けながら近づいてみると、いかさま朝あけの冷たい道にはだしとなって、はんてんのない薄着のからだをふるわせながら、寒そうに相抱き合って、おどおどしている貧しげな子どもがふたりいるのです。――姉とおぼしき者はやはり十一、二歳くらい。その弟と見ゆる子どもは八つくらい。
「ね! これがそうですよ。ふてえやつらだ。このふたりが、そうにちげえねえんですよ」
ぎゅっと両手でわしづかみにしながら、てがら顔にどなっているのを、ずかずかと近よって、ぱらりその手首をはねのけると、まことに涙ぐみたくなるような右門流でした。
「手荒なまねをすりゃこわれちまわあ。――寒いとみえて、くちびるが紫色だな。ほら、これを首にでも巻いていな」
おのが羽織をぬぎ取りながら、きょうだいふたりのえりもとへふんわりかけてやると、黙々としてややしばしじいっとふたりの面を見守っていましたが、じわり、その目に涙をためながら、やさしくいたわるようにいいました。
「二、三日何も食べないとみえて、だいぶおなかがすいているようじゃな。右門のおじさんの目に止まったからにゃ、どんなにでも力になってしんぜるぞ」
「…………」
「泣くでない、泣くでない。さぞかし、ひもじいだろうな。伝六ッ」
用もないのに、こういうときにこそ、おらがだんなのすばらしいところをいばらねば、といわぬばかりで、群衆の間をあちらにまごまご、こちらにまごまごと泳ぎまわっていたあいきょう者を鋭く呼び招くと、ずばり命じました。
「そこの横町へはいれば、大福もち屋があるはずだ。大急ぎで百ばかり買ってきな」
「え? 百! 数の、あの、数の百ですかい」
「決まってらあ。数の百だったらどうだというんだ」
「いいえ、その、ちっと多すぎるんでね、残ったあとをどうするんかと心配しているんですよ」
「さもしいなぞをかけるな! 食べたかったら、おめえがいただきゃいいじゃねえか」
「ちッ、ありがてえ。おらがだんなは、諸事こういうふうに大まかにできているからな。ざまあみろ。やい、何をゲタゲタ笑ってるんだ。じゃまじゃねえか。大福もちが百がとこ買い出しに行くんだ。じゃまだよ、じゃまだよ。どきな! どきな!」
勇みに勇んであいきょう者が飛び出していったのを見送りながら、いまかいまかと命令のあるのを待ちうけていた自身番詰めの小者たちをさし招くと、
「もうご用済みだ。だいじな赤ん坊にかぜでもひかしちゃならねえから、てつだってあっちへ運んでいきな」
いいつけておいて、いたわりながら、おびえおののいているきょうだいふたりを橋向こうのその自身番小屋へいざなっていきました。
3
むろんのことに、すぐさま尋問を始めるだろうと思われたのに、そうではないのです。気の静まるまでというように、じいっと名人は静かにきょうだいふたりを見守ったままでした。
ところへ、両わき両手いっぱいに大福もち包みをいくつかかかえながら、ふうふう
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