しくも美しい女性でした。
「さあ、出やがったッ。だんな! だんな! 犬使いの下手人が出たんですよ! 何をまごまごしているんですかい。草香流だッ。草香流ですよ!」
「とち狂うなッ。これまで来ても、おめえには善悪がわからねえのかッ。お家にあだなす悪人ばら成敗といまお嬢さんが名のったじゃねえかッ。――田鶴どの! おなごの身にあっぱれでござる! 八丁堀の近藤右門がおすけだちいたしまするぞッ」
 叫びざま、ぱっとおどり出すと、おちついているのです。ぽきりぽきりとおもむろに指鳴りさせながら、すいとふたりののろい侍の白刃下へ歩みよると、胸のすく伝法なあの啖呵《たんか》でした。
「犬でも三日飼われりゃ恩を忘れねえってんだ。お禄《ろく》をいただくご主君をのろうたア、世間のだれが許してもむっつり右門とあだ名のこのおいらの気っぷがかんべんできねえんだ。おひざもとを歩くにゃ、もっとりこうになって歩きなせえよ。そらッ。ぽきりと行くぜッ。これが江戸に名代の草香流だッ。涼むがいいやッ」
 ダッと急所の胸当てを一本。ばたり、ひとりを倒しておくと、まことにどうもいいようもなくよろしい啖呵でした。
「おあとのご仁! 江戸
前へ 次へ
全69ページ中63ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング