こっそりご祈願かけにほこら回りをしていらっしゃるとこういうんですよ」
「それだッ。なぞは解けたぜ。今夜は最後の令の字人形ののろいの晩だ。伏せ網はあとの一つの三ツ又|稲荷《いなり》と決まったよ。駕籠屋《かごや》ッ。ひと飛びに湯島まで飛ばしてくんな」
 星、星、星。九ツ[#「ツ」は底本では「ッ」]下がりの深夜の道は、降るような星空でした。
「音を出しちゃならねえぞ」
 伝六を伴ってずかずかとはいっていったところは、最初の夜に伏せ網を張って待ちぼけ食わされた、あの三ツ又稲荷の境内奥の、しんちんとぶきみに鬼気迫るほこらのうしろです。
 一刻《いっとき》! 二刻! そして四半刻――。
「足音だッ。聞こえますぜ。だんな!」
 伝六のささやいた声とともに、ほんのり薄明るい星空下の境内の広庭へ、にょきにょきと黒い姿を現わしたのは、はかま、大小、忍び雪駄《せった》の藩士が三人。
「よッ。今夜は多いね」
「黙ってろ」
 しかりつつ様子やいかにと息を殺しながら見守っている名人のその一、二間ばかり先へ、くだんの三人はひたひたと歩みよると、なかのひとりが懐中から取り出したのは、まぎれもなくのろいの祈りのわら人形
前へ 次へ
全69ページ中61ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング