くも残っていたじゃござんせんかい。まさしく、この野郎は、きのうきょうの騒動につけ込んだただの切り取り強盗ですよ。下手人のあがり方がちっと手間がとれているんで、そこにつけ込み同じ手口のように見せかけて、てめえらの荒仕事もその罪跡を塗りつけようとたくらんでからの切り取り強盗にちげえねえんだ。あげてきたのは、おてがらもおてがらもりっぱな大てがらだが、少うしホシ違いでござんしたね」
 いっているとき、ばたばたと駆けつけてきたのは、同じ敬四郎の命をうけて、どこかのお堂にでも張り込んでいたらしいふたりの小者です。しかも駆けつけてくると、けたたましく訴えました。
「出た出た。敬だんな! また出たんですよ。四ツ谷の通りでふたりもね、お侍姿の者がのど首をやられて、おまけに懐中物をみんなさらわれているんですよ」
 その報告をきくや同時に、敬四郎ならで名人の目がきらりさえ渡るとともに、断ずるごとく自信に満ちたことばが放たれました。
「それもこの騒動につけ込んだ同じにせ者だ。浪人! つらをあげろッ」
 近寄りざまに、じっとそのふてぶてしい姿を見ながめ見しらべていましたが、ちらり、目を射たものは左手首の内側には
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