ろ小手に結わいあげられながら、そのそばにはまた、なるほどのど笛をえぐられた羽織はかまの藩士の死骸が戸板のうえにのっかっているのです。これはまことに不思議といわざるをえない。今の先犬と眼をつけて帰ったばかりなのに、下手人が浪人者であるのも不審なら、同じような死骸が白旗金神以外のところからいま一つ現われたこともおよそ不思議なのです。――名人はのっそり近よると、あごをなでなで、ぎろり、鋭くその死骸を見ながめました。と思われたせつな、何を看破したのかさわやかに微笑すると、穏やかなことばが敬四郎のところへ放たれました。
「どうやらにせもののようだが、これはいったいどうしたんですかい」
「なにッ、にせ者とはなんだ。いらぬおせっかいだ。先手を打たれたくやしまぎれに、つまらぬけちをつけてもらうまいよ」
「いや、そうまあがみがみとことばにかどをたてるもんじゃござんせんよ。はかま大小藩士体のぐあい、のどをやられているぐあい、それに刻限のぐあいもよく似てはいますがね、まさしくこいつあにせ者ですよ。第一はこの首の傷だ、今まで手がけたやつはみんな犬にがぶりとかみ切られているのに、こりゃたしかに刀で突いた刺し傷じ
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