としたところをやられたとみえるな。伝六、龕燈《がんどう》をかしな」
受けとりながら、ちかり、倒れている侍の胸もとを照らし出して見ながめるや同時でした。
「よよッ」
さえまさったおどろきの声が、名人の口から放たれました。
「あるぞ、あるぞ。妙などろの足跡が腰から胸もとにかけてついているぞ」
一見してけだものの足跡とおぼしき梅ばち型の小さいどろ跡が点々として死骸の着物の上についているのです。いや、着物の上ばかりではない。龕燈を照らしてその付近を見しらべると、雨上がりのどろの道にもところどころに消えやらぬ同じ四つ足の足跡がはっきり残っているのでした。――烱々《けいけい》とまなこを光らして、腰から胸へ、胸から首筋へ、そのどろの足跡と、あの疑問の槍傷《やりきず》でもない、突き傷でもない、刀傷でもない不思議なえぐり傷とを、見比べ見ながめ、じっと考えていたが、まことにこの慧眼《けいがん》、この断定こそは、われらが捕物名人むっつり右門にのみ許されるすばらしい眼のさえでした。
「犬だッ。この下手人は犬と決まったぞッ」
「え! こいつあたいへんだ。ど、ど、どこに犬だと書いてありますかい!」
「胸もと
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