いちゅうだというんですがね。どっちにしてもまごまごしちゃいられねえんだ。お出かけなすったらどうですかい」
「よかろう。雨はどうだ」
「もう宵《よい》のうちから降りやんでいるんですよ」
「じゃ、遠くもねえところだ。眠けざましに、お拾いで参るとしようぜ。龕燈《がんどう》の用意をしてついてきな」
じゃのめを片手に微行しながらやっていったのは、八丁堀から目と鼻のその問題の本銀《もとかね》町白旗金神境内です。いかさま不意打ちに会ったのが面目ないとみえて、そこの境内に尾を巻きながら、まごまごしていたのは、あば敬の命令によって、そのあたり一帯に伏せ網を張っていたつじ役人どもの五、六名でした。もちろん、まだそのままになっている死骸《しがい》のそばへ近づいていってみると、はかまに大小、白たび足駄《あしだ》の藩士姿に変わりはないが、倒れている位置が少し違うのです。いつものような社殿の前でなくちょうどそこはどろの道の境内の入り口でした。いぶかって懐中に手を入れてみると、ある、ある、出てきたのは背裏に、律と書いた巳《み》年の男、二十一歳のわら人形と、金づちと、三寸くぎです。
「ほほうな。のろいうちにはいろう
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