かまいなしで、ゆうゆうと眠りつづけていましたが、とっぷり日が落ちきってしまったころになると、がばとはね起きざまに納所坊主を呼び招きながら、いともまじめくさって、おごそかにいったことでした。
「いや、どうも近ごろにないけっこうな修行をいたしました。事のついでにと申しては無心がましゅうて恐れ入るが、ちょうどお斎《とき》のころじゃ。夕食ご造作《ぞうさ》にはあずかれまいかな」
「はっ、心得ました。お目ざめになりますれば、ほかならぬあなたさまのことでござりますゆえ、たぶんそのご用がござりましょうと、もうしたくしておきましてござります」
「ほかならぬあなたさまとは、なんのことでござります」
「お隠しあそばしますな。さきほどからの不審なおふるまいといい、そちらのおかたのおにぎやかさといい、どうもご様子ががてんまいりませぬゆえ、いろいろとみなして評定いたしましたが、あなたさまこそ今ご評判の右門殿でござりましょうがな」
「あはははは、とうとう見破られましたか。それとわかれば、隠しだていたしませぬ。ちと詮議《せんぎ》いたさねばならぬことがござりますゆえ、このような無作法つかまつりましてござります。上さまご
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