さっさとやっていったところは、お堂の裏の昼なお暗くこんもりと茂った森でした。のみならず、その森の中へずかずかはいっていくと、そくそくとそびえている杉の木立ちを一本一本丹念に見調べていましたが、と、――そこのいちばん奥の別して大きい一本の前まで歩み近づくや同時に、名人のもろ足がぴたりくぎづけになったかと見えるや、その両眼が物におびえでもしたかのごとく妖々《ようよう》としてさえ渡りました。なんとぶきみなことか、その太い杉の赤茶けた幹の腹には、手足そろったわら人形が、のろいのあのわら人形が、両足、両手、胸、首、頭と、七本の三寸くぎに打ちえぐられて、無言のなぞと、無限の秘密をたたえながら、ぐさりとくぎづけになっていたからです。しかも、そのくぎの新しさ! そのわら人形の新しさ! ――だれが見ても、ゆうべの丑満時《うしみつどき》にのろい打ったものとしか思えないのです。同時に、伝あにいがくちびるまでもまっさおにしながら、けたたましい音をあげました。
「ち、ち、ちくしょうめッ、やったな! やったな! あれですよ、あの野郎ですぜ。ふところから金づちと三寸くぎが出たじゃござんせんか。ね、ちょいと、あのわに
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