「へへねえ。こりゃまたどうしたんですかい。やけにまた下司《げす》なものが出てきたじゃござんせんか。まさかに、この侍、棟梁《とうりょう》を内職にしていたんじゃありますまいね。え? だんな。ね、ちょいと。いったいこりゃなんですかね」
 間をおかずにやかましくさえずりだしたのをしり目にかけて、烱々《けいけい》と目を光らしながら右の二品を見ながめていましたが、さっそうとして立ち上がると、不意にずばりと抜き打ちの右門流でした。
「どうだね。あにい。おいらはひげすり閻魔《えんま》さまへお参りしたのはきょうがはじめてだ。ひと回り見物するかね」
「え……?」
「木があって、森があって、池があってね、なかなかおつな境内のようだから、ひと回り見物しようぜといってるんだよ」
「かなわねえな。思い出したようにしゃべったかと思うと、やけにまた変なことばかりいうんだからね。おたげえ死ねば極楽へ行かれる善人なんだ。用もねえのにお閻魔さまのごきげんなんぞ伺わなくたっていいんですよ。――ね、ちょいと。やりきれねえな。とっととそんなほうへいって、何が珍しいんですかよ」
 鳴り鳴り追ってきたのを振り向きもしないで名人が
前へ 次へ
全69ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング