、ぽたりどころの騒ぎじゃねえんです。からかみから、びょうぶから、着て寝ている夜具ふとんまでがぐっしょりと水びたしになっているというんですよ。それがひと晩やふた晩じゃねえんで、毎晩知らぬまに、出どころたれどころのわからねえ幽霊水にぐっしょりとぬれているんでね。とうとう気味がわるくなって、四日めに宿屋を替えたんですよ。するてえと、だんな――」
「また出たか」
「出た段じゃねえんです。泊まり替えたその宿屋でもまた、朝になってみるてえと、衣桁《いこう》にかけておいた着物までが、ぐっしょりと水びたしになってね、おまけにまだぽたぽたとしずくがたれていたっていうんですよ。だから、すっかりおじけをふるって、その日のうちにすぐまた三度めの宿を替えたら、ところがやっぱり幽霊水があとをつけてくるというんです。しかも、おまえさん、いいえ、伝六だんな、それからっていうものは、いくら宿を取り替えても、必ず朝になるてえとぐっしょり何もかもぬれているんでね。だから、とうとう――」
「よし、わかった。べらぼうめ。ほかならぬこの伝六様がお住まいあそばす江戸のまんなかに、そんなバカなことがあってたまるけえ。おおかた、河童《
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