の顔をやけにまじまじと見つめていやがるんだ。今、もしえといったじゃねえか。声の穴が通ってるんだろ、返事をしろ。どこから来たんだ。な、なんの用があって来やがったんだ」
たたみかけていったのを、不思議な男は一言も答えずにじいっと伝六の顔を長いこと見守っていましたが、とつぜん奇妙なことをずばりといいました。
「だんなは、江戸っ子でござんしょうね」
「なんだと!」
「だんなは江戸っ子かどうかとおききしているんでござんす」
「べらぼうめ。気をつけろ。余人は知らず、江戸っ子の中の江戸っ子のこの伝六様をつかまえて、だんなは江戸っ子でござんしょうかねとはなにごとだ。いま八百八町にかくれのねえ右門のだんなの一の子分といや、ああ、あの江戸っ子かと、名まえをいわなくともわかっているくれえのものなんだ。おれが江戸っ子でなかったら、ど、どう、どうしよってんだい。ええ、おい。ちっちぇえの!」
「あいすみませぬ。ただいま、ぽんぽんと景気よくおっしゃった啖呵《たんか》だけでも江戸っ子に相違ござりますまい。なら一つ――」
「なら一つがどうしたってえいうんだい。江戸っ子なら、べっぴんでも世話するっていうのかい」
「冗、
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