えながら、いいこころもちになってあの世の辰《たつ》と話をしているさいちゅう、どこから忍び込んで、いつのまに庭先までもはいってきたのか、不意にしょんぼりと目の前に立ちふさがりながら、いきなり「もしえ」と、あの世の人のような力のない声で呼びかけたので、愛すべきわが伝六はおもわずぎょッとなりながら、鳥はだたちました。いや、不意だったのにおどろいたばかりではない。影ばかりの人のようにしょんぼりとしていたその姿に、おどろいたばかりでもない。力のないその声にぎょッとなったばかりでもない。いかにも、その男が小さいのです。さながら善光寺辰の再来ではないかと思えるほどに小さいのです。――伝六は、背に水をでも浴びせかけられたようにぞっとなりながら、ふるえ声できめつけました。
「ま、まさかにおめえは、辰じゃあるめえな。た、辰ならまだ出てくるにゃちっとはええぞ。――ど、どこのどいつだ。な、なに用があって来たんだ」
「…………」
「返事をしろ。な、なにを気味わるく黙ってるんだ。むしのすかねえ野郎だな。返事をしろ。な、なんとかものをいってみろ」
「…………」
「耳ゃねえのか。気、気味のわりい野郎だな。なんだって人
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