っぴんが幽霊水の下手人っていうだんなの眼《がん》に不足をいうんじゃねえが、その下手人が殺されているっていうのは、いってえどうしたわけなんです。だれが見たって、こりゃ、いい心持ちで三味をひきひきうなっているところを、ぐさりとうしろからやられたものにちげえねえんだからね。現の証拠にゃ、うしろにその匕首がころがっているから、なにより確かなんだ」
「…………」
「ね、だんな、どうですかね。殺されるって法はねえんですよ。ええ、そうですとも! おまけに、くやしいほどのべっぴんなんだからね。どう考えたって、この世の中にべっぴんがただ殺されるって法はねえんですよ、どうですね。またあっしがかれこれしゃべっちゃうるせえですかね」
しかし、名人はおしのように黙り込んだままでした。黙々としてこごみながら、じいっと双の目を光らして二三春の髪の道具を見調べました。くし、こうがい、共に栗木屋の座敷で見つけたあのかんざし同様、だきみょうがの紋が彫りきざんであるのです。しかし、かんざしはない。同じ紋どころの他の品が、くし、こうがい共にそろっているのに、かんざしばかりないところを見ると、先ほどびょうぶの裏すそから見つけ
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