せぬ」
「なにもあやまることはない。師匠は、三左衛門は小屋のほうか」
「へえい、朝の四ツから幕があきますんで、もうとうに楽屋入りしたんでござります」
「荷造りしているところをみると、今晩もまたどこかへ宿替えしようというんだな」
「へえい、こう毎晩毎晩じゃ、命がちぢまるさかい、今夜からお師匠はんもわてたちといっしょに楽屋で寝よういいなはるよって、荷ごしらえしているのでござります」
「というと、宿を取って寝るのは、いつも三左衛門ひとりきりか」
「へえい、そうでござります」
「なら、ゆうべのもよう、おまえではよくわからぬな」
「いいえ、わてはいっしょに泊まらいでも、お師匠はんから聞いたり、宿の衆からも聞いたりしておりますさかい、よう知ってまんね。まるでな、ねこほどの足音もさせいでな、朝になってみると知らぬまにこのとおり水びたしになっていますのや。な、ほら、たたんでおいたお召し物までが、このとおりぬれてまっしゃろ」
「ほほう、いかにもな。すると、なんじゃな、いつ忍び込んで、いつこんないたずらをするのか、今まで一度も下手人の姿は見たことがないというのじゃな」
「へえい、姿はおろか、影も見たことが
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