みに水をぶっかけてまわるなんて、そんなけちなまねゃしねえと思うんだ。べつに、なにもあっしゃ江戸屋の親類でも回し者でもねえんですが、あかの他人だっても同じ江戸っ子なら、贅六ふぜいにおひざもとっ子が、ほんとうにやったかどうかわかりもしねえことをかれこれいわれて、いいようにひねられていると聞いちゃ黙っていられねえんです。こうしてわざわざおねげえに来たのも、つまりはそれでござんす。だんなも江戸っ子なら、きっとお腹がたつだろうと思いましてね。たてば、ほかならぬ右門のだんなの一の子分の伝六親方のことだから、ぱんぱんと啖呵《たんか》をおきりなすって、朝めしまえにだれがまことの下手人だか、幽霊水の正体つきとめてくださるだろうと思って、暑いさなかもいとわず、わざわざこうしておねげえに来たんでござんす。ねえ、だんな! 同じおひざもとっ子一統の顔にかかわるんだ。ひとはだぬいでおくんなせえまし! ねえ、伝六だんな! いけませんか、ねえ、伝六親分!」
「…………」
 ぐいぐいと油をそそぎかけられて、一の子分の伝六親分、すっかりいい心持ちそうに黙り込みながら、必死と首をひねりにひねりだしました。まことに無理がない
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