ぞれいとしい思い人思い雛に愛し祭りながら、この年までの十二|歳《とせ》十二春、なんのまちがいもなく飾りつづけてきたところ、そうするのが毎年の吉例になっていたので、けさほど古島家から親子を招き、娘ともども白酒祝いをやったのち、何心なく男雛を手にとってよくよく調べてみると、いつのまににせものとすり替えられたか、たいせつなその思い雛恋の預かり雛が、現在ここに飾ってあるような偽物偽作とすり替えられていたというのです。
「それゆえ――」
 ご後室は悲しげに目をうるませると、悲しげに声をおとしながら訴えるのでした。
「こちらでは夢にも知らないことでおじゃりますのに、古島様親子はこのように申されて、ことのほかご立腹あそばされたのでおじゃります。知ってしたことならなおのこと、たとえ盗難にかかってのことであろうと、女夫《めおと》の約束代わりに預けたたいせつな片雛が、こんなまがいものとすり替えられているは、とりもなおさず生きた夫をすり替えたも同然じゃ。盗難悪意いずれであろうと了見ならぬゆえ、あらためてしかとの返答さっしゃいと、たいへんなお腹だちでな、うちの春菜にかぎっては、人さまもおほめくださるほど身堅い
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