ら、ねずみがとれるんですかねえ。え……? だんな! とれるんですかね」
「うるさいッ。だれか庭先に来たじゃねえか」
 なるほど、ちらりと縁側の向こうに人影がさしたので、なにげなく障子をあけて、ひょいと見ると、これがただ者ではない、まことに久方ぶりでのお目みえですが、同僚のあのあばたの敬四郎です。声もかけずに、無断で人の庭先までも押し入るとは、ふらちなやつと思いましたが、同役同僚とはいうものの、とにもかくにも先輩でしたから、何ご用かと名人みずから立ち上がって縁側まで出迎えると、こやつ、よくよく生まれながらのかたき役でした。顔じゅういっぱいのあばたを気味わるくゆがめて、意地わるそうにせせら笑いながら、いきなりいいました。
「捕物《とりもの》名人とやらいうおかたは、お違い申すな」
「なんでござります」
「お偉くなると、お心がけも変わるとみえるよ。正月の二日《ふつか》といえば、上役同僚おしなべて年始に参るが儀礼じゃ、縁もゆかりもない手下の小奴《こやっこ》がくたばったぐらいで、服喪中につき、年賀欠礼仕候と納まり返っているは、さすがに違ったものじゃというのさ」
 じつにいやみたっぷりな言い方でした
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