き――、意気揚々と引き揚げてきたのは、あば敬とその一党です。しかも、眼《がん》のとおり、一見していんちきばくちのいかさま師と思われる遊び人ふうの男をおなわにしていたものでしたから、あば敬の鼻の高いこと、高いこと。
「ご無礼したな、せいぜいあごでもなでるといいよ」
 いどみがましく通っていったのを、名人は柳に風と受け流しながら、なにごとか確信でもがあるらしく、にやにややったままでした。と同時のように、ぴしりぴしりとお白州から、あば敬がさっそくお手のものの拷問を始めたらしく、打ち打擲《ちょうちゃく》の音が聞こえるのです。
 聞いて、まごまごとあわてだしたのは伝六でした。
「泣きたくなるな。今のせりふがくやしいじゃねえですか! ご無礼されねえように、なんとかしてくだせえよ! ね! だんな、なんとか力んでくださいましよ!」
「うるせえな、てがらはこれからだよ。静かにしろ」
 その間にもいんちきばくち師を責めにかけつづけているとみえて、ぴしりぴしりとあば敬一流の責め音が聞こえたものでしたから、気が気でなかったとみえて、伝六太鼓があちらにまごまごこちらにまごまごと行ったり来たり、すわったり立ったり
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