のう。な! そうだろう! おにいさんがいっしょうけんめいにおもちを食べているところを、いきなり御用ッと打ってかかったんで、そなた腹をたててあばれだしたんだろう。あげるよ! あげるよ! ほら、きな粉をあげるから、たっぷりつけておあがりな」
 まったくうれしいくらいでした。いや、真に人を見て法を施せとはこれでした。果然、狂人は名人のずぼしどおりきな粉に未練があったとみえて、にやりとしながらおとなしく近よってきたところを、――やんわりと軽く草香流!
「あぶない! あぶない! こんな出刃包丁なんぞ振りまわしながらおもちを食べてはあぶないよ。おにいさんが自分でけがをするとあぶないから、これはこっちへしまっておいて、ほら! ゆっくりきな粉をおなめな。そう! そう! なかなかおりこうだね」
 物騒な刃物を取りあげておくと、自身のてがらにするかと思ったのに、淡々として水のごとし! きれいにのしをつけて敬四郎に進上したので、なおさらうれしくなるのです。
「いかがです? このにいさん、ご入用ではござりませぬかな」
「いろうと、いるまいと、うぬからさしずうけぬわッ」
「ま、そう、きまり悪がって、がみがみとお
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