ろはなかったのに、正月そうそうからつれなくなさるから、つい愚痴が出たんですよ。べらぼうめ! あばたの敬公、ざまアみろい。おらがのだんなは、初めから相撲にしていねえんだ。そうと事が決まらば、おまんまも食わする段じゃねえ。あるものをみんな読みあげるから、ほしい品だけをおっしゃってくだせえましよ。――いいですか。ええと、ごまめに、きんとん、おなます、かずのこ、かまぼこ、小田巻き、こはだのあわづけ、芋のころ煮、ふなのこぶ巻き、それから、きんぴらに、松笠《まつかさ》いかのいそ焼きと、つごう十一色ござんすが、どれがお好きですかい」
「みんな出しなよ」
「え……?」
「みんな出せばいいんだよ」
「おどろいたな。このほかにまだあるんですぜ。これは暮れの歳暮の到来ものなんだが、赤穂《あこお》だいの塩むしがまるまる一匹と、房州たこのでけえやつもまだ一ぱい残っているんですぜ」
「遠慮はいらんから、それも出しな」
「あきれたな。こいつをみんな召し上がるんですかい」
「あたりめえだ。食べ物だって風しだい、舵《かじ》しだいだよ。はしの向いたほう、目の向いたほうをいただくんだから、威勢よくずらずらッと並べておきな」
前へ
次へ
全48ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング