とらしゃがった。いまに騒ぎだすだろうと思って、おもしろくもねえ玉ころがしで、あわてだすのを張っていたんだ。右門の眼《がん》に狂いはねえはずだから、そのつづらをあけてみな」
 伝六さらに得意になって、怪しくも大きなそれなるつづらのふたをあけてみると、果然、さるぐつわのままで、ひょろひょろと現われたのは、探索中の老婆です。しかも、名人のいったとおり、ひとりでにいっさいのなぞが老婆の口から解けました。
「ありがとうござります。ありがとうござります。婿は、玉ころがし屋の悪はどうなりました」
「きのどくながら、ご番所で舌をかみ切りましたぜ」
「いい気味でござんす! あんな鬼畜生は、それがあたりまえでござんす! ほんとに、なんて人でなしの野郎でござんしょう! いくら血筋はつながっていなくとも、義理の甥《おい》をくびり殺すとは、ばちあたりでござります」
「じゃ、おばあさん、何もかも見ていたのかい」
「見ていたどころか、わたしの目の前で殺したんでございますよ。それというのが、一万両ばかり先代の残した金がござんすので、せがれ夫婦が死んだあとの遺産に目をつけて、かわいそうに、孫どもをなくして跡を断ってしまえば、気の触れた弟子《おとうとご》に行くはずはなし、そっくりそのまま婿のわが身にころがり込むだろうと、あのようなおろかなまねをいたしまして、このわたくしまでをも、こんな悪のところに押し込め、今が今まで身代を譲れの渡せのと、責め折檻《せっかん》をしていたのでござります。――どなたさまやら、なんとおっしゃるだんなさまやら、年寄りの目には……この老婆の目には、生き如来様のように見えまするでござります」
「もったいのうござんすよ。拝まれるほどの男じゃねえんです。お手をおあげなすって! お手をおあげなすってくだせえまし! そんなに拝まれりゃ、地もとの観音さまに申しわけござんせんや」
 まことに淡々として名利に淡泊でした。
「じゃ、伝六ッ、なんとやら団兵衛とかいった一家の者は、例のように辻《つじ》番所へでも始末してな。おばあさんはこっちのお駕籠《かご》だ。お乗りなせえまし」
 いたわりながら数寄屋橋《すきやばし》へ引き揚げていくと、舌をかみ切ってひくひくと苦悶《くもん》している玉ころがし屋のそばで、ぼうぜんと失神したようにまごまごとしていたあば敬の前に、老婆をずいと押しやりながら、あっさりと一揖《
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