いっしゅう》していいました。
「へえ、お待ちどうさま、おみやげでござんすよ、おばあさんに聞きゃわかるから、尋ねてごらんなさいな」
 去ろうとしかけて、ふいっと何か思いついたように立ち止まると、にやにやしながら、改まっていいました。
「そうそう、いま思い出しました。朝ほどはわざわざ組屋敷のほうへご年始の催促に来ていただいて恐縮しましたね、ついでに、ここで申しておきましょう。明けましておめでとうござる。ことしもこんなぐあいに、あいかわらず――さようなら」
「ちぇッ。すっとしたね。ああ、たまらねえな。ね、敬だんな! ことしもこんなぐあいに、あいかわらずたアどうですかい。おらがだんなのせりふは、このとおり、こくがあるんですよ。ああ、たまらねえな。すっとしましたね」
 伝六のよろこぶこと、溜飲《りゅういん》をさげること!
「ほい! どきな! どきな! 初荷だよ! 初荷だよ!」
 主従ふたりが戸を並べて出ていったその表の通りを、いなせに景気のいい江戸まえの初荷が、景気よくいなせに呼んで通りすぎました。
 ――なお、これは余談ですが、まもなく本郷妻恋坂の片ほとりに、三体の子ども地蔵が安置されて、朝夕、これに向かって合掌|看経《かんきん》を怠らぬ年老いた尼と、年若い尼のふたりが見うけられました。老尼はいうまでもなくあの老婆、若尼は不良の夫をいさめてついにいさめきれなかったあの落としまゆの女でした。もちろん、みなこれらのことは、わが捕物名人の情けある計らいによった結果です。



底本:「右門捕物帖(三)」春陽文庫、春陽堂書店
   1982(昭和57)年9月15日新装第1刷発行
入力:tatsuki
校正:しず
2000年4月12日公開
2005年9月20日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全24ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング