のう。な! そうだろう! おにいさんがいっしょうけんめいにおもちを食べているところを、いきなり御用ッと打ってかかったんで、そなた腹をたててあばれだしたんだろう。あげるよ! あげるよ! ほら、きな粉をあげるから、たっぷりつけておあがりな」
まったくうれしいくらいでした。いや、真に人を見て法を施せとはこれでした。果然、狂人は名人のずぼしどおりきな粉に未練があったとみえて、にやりとしながらおとなしく近よってきたところを、――やんわりと軽く草香流!
「あぶない! あぶない! こんな出刃包丁なんぞ振りまわしながらおもちを食べてはあぶないよ。おにいさんが自分でけがをするとあぶないから、これはこっちへしまっておいて、ほら! ゆっくりきな粉をおなめな。そう! そう! なかなかおりこうだね」
物騒な刃物を取りあげておくと、自身のてがらにするかと思ったのに、淡々として水のごとし! きれいにのしをつけて敬四郎に進上したので、なおさらうれしくなるのです。
「いかがです? このにいさん、ご入用ではござりませぬかな」
「いろうと、いるまいと、うぬからさしずうけぬわッ」
「ま、そう、きまり悪がって、がみがみとおこらなくてもよいですよ。ご入用なら、お持ちあそばしませな」
「ちぇッ。せっかくだんなが手取りにした上玉を、なにものしをつけて進上するこたあねえでしょう! 人がいいからな、見ているこっちがくやしくなるじゃござんせんか!」
横から鳴り屋の太鼓が鳴りだそうとしたのを、名人は微笑しながら目顔で穏やかに押えておいて、じろりと足もとに目を移しながら、非業の凶刃に倒れている三人の子どものむくろを見ながめました。と同時に、名人の目がきらりと光った。むざんもむざんでしたが、第一に不審だったのは、それなる三人の子どもが、そろいもそろった男の子ばかりだったからです。いや、不審はそればかりでない。奇態なのはその傷でした。血のついた出刃包丁を振りまわしていた以上は、おそらくその凶器で狂人が突き刺したのだろうと思われるのに、傷が二色あるのです。ぐさりと胸もとをえぐっている三少年の三つの傷は、たしかに出刃包丁の突き傷に相違ないが、いま一カ所子どもたちの首筋に、そろいもそろって何か細ひものようなものででも強く絞めつけたらしい、赤く血のしんだみみず色の斑痕《はんこん》があるのです。絞殺しておいて、しかるのちになんらか
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