した。いや、凄艶であるべきが当然です。何がゆえに、わが配下の辰と、恩顧ある名宰相のお禄人《ろくびと》とかように争い、かように相討ち遂げたか、その原因たる事の起こりのいかんによっては、おのが身の進退にも及ぶべき重大事だったからです。
伝六とてもまたしかり! 百鳴り 千鳴り、万鳴りのあいきょう者も、おのが弟分にかかわりある事件とあっては、鳴る太鼓も日ごろのように朗らかな音が出ないものか、それきり音止めをやって、かたずをのみながらじっと見守りました。
名人は静かに歩みよると、まず見ながめたのは、ふたりの肩口の傷です。それから、両名が握りしめている太刀《たち》――。つづいて両人の位置。互いに顔を向き合わせるようにして、うち倒れているその位置です。以上の三点を林のごとき静けさを保って短檠のあかりをさしつけながら、巨細《こさい》に見調べていましたが、そのうちに、ピカリと、真にピカリと、名人の目がさえ渡るや同時に、
「よッ!――」
力のこもったよッという叫びが漏れました。
「なんぞあったか!」
「…………」
「なんぞ、調べのついたことがあるか!」
「はっ。ござります! たしかにござります!」
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