うじゃが、それにしても不審は、両名が何をもとに争ったかじゃ。弓を取りに参った辰九郎に争うべき筋があるとも思われず、専介とても辰九郎にいどみかかるべき節があろうとも思われぬのに、かく相討ち遂げているとは気がかりゆえ、じゅうぶん心いたして、一世一代の知恵ふるってみい!」
 いわれるまでもない! おのが配下の辰九郎が、――宰相伊豆守の推挙によって配下となったその辰が、推挙をしてくれた伊豆守のご家臣と、かようないぶかしき刃傷の相討ちを遂げているとは、まさに容易ならぬ事件です。ただ一つ恨むらくは、発見したという朝の五ツから、この宵《よい》六ツすぎまで、少しく時のたちすぎているのが心がかりでしたが、こと、それと決まらばなんのちゅうちょがあろう! つづいて急務は二つの死骸《しがい》の検証です――。名人は短檠《たんけい》を片手にすると、いまだにしんしんとおやみなく降りしきる粉雪を浴びつつ、やおらふたたび庭先に降り立ちました。
 その顔の青さ!
 その決意の強さ!
 ぶきみにぼうっとあかりさす短檠を片手にかざして、降りしきる雪の庭にたたずみ立った名人右門の姿は、さっそうというよりむしろ凄艶《せいえん》で
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