……そうでござります」
「きょうがご命日か」
「あい。月は違いますなれど、二十六日がみまかりました日でござりますゆえ、父にるすを頼みまして、朝ほど浅草の菩提寺《ぼだいじ》へ参り、五ツ少しすぎまして帰ってまいりますると――」
「お父上とあれなる辰がふたりして切り結んでいたと申されるか」
「いえ、違います。違います。父はおはぎが大の好物でござりましたゆえ、駒形《こまがた》まで回ってみやげに買ってまいりましたところ、いかほど呼んでも、ととさまのご返事がござりませなんだゆえ、捜すうちにこの庭先で、ふたりが雪の中にこのようにあけに染まって倒れていたのでござります」
「そのときはもうこと切れてでござったか。それとも、まだ息がござりましたか」
「こと切れてでござりましたが、まだふたりとも、からだにぬくもりがござりましたゆえ、いっしょうけんめい介抱いたしましたなれど、あの深手でどうなりましょう、そのうちにも冷たくなってしまいましたゆえ、さっそくどなたかにお知らせいたしましてと存じましたなれど、あいにくきょうは、お長屋のかたがたみなご非番で、どこぞに他出なされて、どなたもおいでがござりませなんだゆえ、ど
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