りしきる粉雪を全身に浴びたままで、待ちきれなかったもののようにつとお姿を見せたのは、だれでもない伊豆守ご自身でした。その一事だけでもがよくよく事件の重大事であるのを物語っているうえに、密事の漏れるのをはばかってか、側近の者をすらも従えず、ただご一人でお待ちうけしたので、名人の声はいよいよ震えました。
「よほどの大事と拝せられまするが、なにごとにござります?」
「一見いたさばあいわかる。こちらに参れ」
みずから先にたって、ちょうどそのとき、息せき切りながらはせつけた伝六ともども、名人主従を導いていかれたところは、いぶかしいことに屋敷のすみの一郭のお長屋でした。しかも、そのいちばんはずれの小さな一軒の前へ行くと、
「采女《うねめ》、だれもいまいな」
「はっ。じゅうぶんに見張っておりましたゆえ、だいじょうぶにござります」
鷹野《たかの》に召し連れていった小姓の采女に念を押していられましたが、先にたってそこのくぐり門から庭先へはいっていくと、足もとを指さしながらおごそかにいわれました。
「なぞはこの二つの菰《こも》の下じゃ。とってみい!」
取りのけて雪あかりをたよりながら見ながめるや同時
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