「な、な、なにを申すかッ。天下のお直参に向かって何を無礼申すかッ」
 にわかにいたけだかとなったやつを、あっさりと押えてさらに名啖呵! 
「笑わしゃがらあ! そのせりふももう古手だよ! さる回しの鼓がしょうずなお直参もなかろうじゃねえか! あっさりとどろを吐いたがよかろうぜ、むっつり右門とあだ名のこわいおじさんがにらんでのことなんだ。どうでやす? 金どんの親方!」
「き、き、金どんの親方とは何を申すかッ。無礼いたすと容赦はせぬぞ」
「よせやい! 大将! 抜くのかい! できそこないの秋なすじゃあるめえし、すぱすぱと切られちゃたまらねえよ――ほら! ほら! このとおり草香流が飛んでいくじゃねえか!」
 なまくら刀に手をかけようとしたのを、パッとあざやかにひねりあげておくと、さらにずばりと胸すかしの名啖呵が飛びました。
「まだお夕飯をいただかねえので、ちっと気がたっているんだ。手間をとらせると、おれはがまんしてもこっちの伝六あにいが許すめえぜ。さらりと恐れ入ったらどんなもんだ。なんなら、ゆうべたたいた鼓を家捜ししてやってもいいぜ」
「…………」
「黙ってたんじゃわからねえよ。鼓だけで気に入ら
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