ものだが、しかるに許しがたきはそれなる相手の金八でした。せめて妻女の始末ぐらいは、当然もう始めているべきが定《じょう》なのに、香華《こうげ》一つたむけようともせずほったらかしておいたまま、女中のお葉を、ぽちゃぽちゃッとしたべっぴんなんで少し気になるがと仙市座頭がいったお葉なるその女中をそばへ引きつけて、妻女の品とおぼしき形見の着物をたんすの中から取り出しながら、
「どうだ。こっちも似合うだろう」
「ま! すてき! これもくださるの」
「やる段じゃない、みんなもうきょうからはおまえのものだよ」
「ほんと? じゃ、ご本妻にも直しくださるのね」
「そうさ。だから、な……? わかったかい?」
 なぞと、ことのほかよろしくないふらちを働いていたものでしたから、ぬうっと静かにはいっていった名人の口から、すばらしいやつが飛んでいきました。
「大きにおたのしみだね」
「げえッ!――」
 というように驚いて振り返ったところを、十八番の名|啖呵《たんか》! 
「げいッもふうもあるもんかい! おたげえに忙しいからだなんだ! のう、金大将! ふざけっこなしにしようじゃねえか! こんなしばいはもう古手だせ!」

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