じましたが、何はともかくお呼びならばと思いまして、かって知った庭先のほうからお伺いしましたところ、妙なんですよ。いま話しに来いとおことづてくださったそのお内儀のへやがまっくらがりで、おまけにいくらごあいさつを申し上げてもご返事がございませんのでな。さては持病の癪《しゃく》がにわかに起きて、気を失っていらっしゃるなと思いましたんで、手さぐりに上がりながらなにげなくお首のところへ手をやるとぺったり――」
「血がついたんで、無我夢中に逃げ帰ったといわっしゃるか!」
「へえい、そうなんです。だからもう、つえも何もほったらかして――」
「待った! 待った! ちょっと待ったり! でも、少しその話ゃ変だな。りっぱな目あきのあんたが、用もないつえを持っていったとはおかしくないかい」
「ごもっともです。いかにもご不審はごもっともですが、わたしたちあんまのつえは、和尚《おしょう》さまの衣のようなものなんですよ。むろんのことにご存じでござりましょうが、小僧は青竹、座頭は丸樫《まるがし》、勾当《こうとう》は片撞木《かたしゅもく》、※[#「てへん+僉」、第3水準1−84−94]校《けんぎょう》は両撞木《りょうし
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