ゅもく》とつえで位が違いますんで、目あきだろうとあんまなら位看板に格式格式のつえを持つんですよ。だから、あっしのつえに不思議はねえが、いまだになんとも気味わるいことには、逃げ帰るそのときに、あのお屋敷のへいのところでちらりと変なものを見たんですがね」
「何じゃ」
「猿公《えてこう》ですよ」
「なにッ。猿《えて》とな!」
「へえい、たしかに猿公なんです。でも、いくら猿公がくらやみの中から飛び出してきたって、けだものが人間をそうやすやすと刺し殺せるわけのものではなし、だからどうしたってきっと行き合わしたあっしに疑いがかかるだろうと存じましてね。つまらぬ疑いのもとになっちゃたいへんだから、ほうり出したつえも拾って帰って、どこかへ隠そうかとも思いましたが、なまじ隠して見つけ出されりゃ、いっそう疑いが濃くなるんだし、それに家のほうにもこのとおり疑いのもとになる刀も何本かあるんだから、こいつもどうしよう、隠そうか、売り飛ばそうかと迷いましたが、細工をしてまた足がつきゃ、なおさら疑いがかかるんだしと、すっかり思いあぐねて、ただもう震えていたんでごぜえます」
「いかにものう。変なことに出会ったというの
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