まりますまいから、今まで手間をとらせたその償いに、ゆうべの一条をすっぱりと白状したらどうですかい」
「…………」
「黙っていりゃ、せっかく晴れかかった疑いがまた曇りますぜ」
「でも……」
「心配ご無用。見りゃ刀のどの小柄《こづか》にも血の曇りはねえし、察するところ、今まで震えていたなあ、ゆうべそのぱっちりとあいている目で、何か変なことを見たんで、かかり合いになっちゃと、心配してのことにちげえねえと思うが、的ははずれましたかね」
「恐れ入りました。そのとおりでごぜえます。じつあ――」
「見なすったか!」
「見もし、出会いもしたんで、疑いがかかりましてはと、今まで生きた心持ちもなかったんでございますが、ゆうべのかれこれ九ツ近いころでした。井上のおだんなのところから、お葉さんがお使いにみえましてね――」
「葉というは女中か!」
「へえい、ぽちゃぽちゃっとしたべっぴんなんで、年は若いし、ちっと気にかかっているんですが、そのお葉さんがお使いに来て、奥さまからのおことづてだが、おだんなが夜勤にお出かけなすって、たいくつしているから話しに来いと、こういう口上でございましたんで、夜中近いのに変だなと存
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