づけている仙市のほうに目を移し、移してはまた刀のほうに目をやって、四半刻《しはんとき》、半刻と、ついには一刻近くもじっと考え込んでしまったものでしたから、鳴り屋の千鳴り太鼓が、陰にこもって初めは小さく、やがてだんだんと大きく鳴りだしました。
「ちぇッ」
「…………」
「じれってえな」
「…………」
「何がわからねえんだろうね」
「…………」
「まちげえならまちげえ、犯人《ほし》なら犯人と、ふにおちねえことがあるなら、バンバンと締めあげてみりゃらちがあくじゃござんせんか!」
「…………」
「達磨《だるま》さんのにらめっこじゃあるめえし、震えているめくらあんまを相手に、気のきかねえだんまりを始めて 何がおもしれえんですかい! まごまごしているうちに日が暮れちまったじゃござんせんか!」
いかさまつるべ落としの秋の日と、形容どおり、いつかもうたそがれかけてきたというのに、なおしきりと考え込んでいましたが、しかし、そのうちに名人の手がそろそろとあごの下にまわされだしました。まわれば、いうまでもなく眼のつきだした証拠です。知った千鳴り太鼓が、またどうして鳴らずにいられよう!
「よよッ。そろそろと
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