んだままでした。また、これはまたいかな名人とても、考え込んでしまったに不思議はない。逐電したかと思えばちゃんとおり、おる以上はおそらく不敵なやつだろうと想像してはいったのに、案外にもブルブルとやっているにもかかわらず、もみ療治|稼業《かぎょう》の座頭ふぜいには、どう考えても不似合いな大刀が、それも十数本飾りものとなっていたんですから、まったく不審千万! ぶきみ千万――
「ちっとこりゃまたてこずりそうだな」
 つぶやいていましたが、やがてしかし床の間へ近づくと、何はともかくというように、飾ってある大刀を、一本一本と調べだしました。もちろん、調べたところは小柄《こづか》です。非業の最期を遂げた井上金八妻女の傷は小柄だな、と眼をつけたその眼の的否をたしかめようとするらしく、一本一本と鞘《さや》から抜いてはためつ、すかしつ、見改めていましたが、悲しいかな急所のその眼が狂ったらしい!――みるみるうちに、秀麗なその面を蒼白《そうはく》にさせると、むっつりと、真にむっつりとおし黙って、そこにすわり込んでしまいました。
 しかも、端然と端座しながら、床の間の不審な刀を見ては、いまだにうしろ向きで震えつ
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