ちんまりとした善光寺辰が、風船玉のように飛び込んだあとから名人はゆうゆうとはいっていくと、まずお公卿さまに命じました。
「目ぢょうちんだッ。目ぢょうちんだッ。はええところ辰公! 見当つけろッ」
「つきました! つきました! 床の間の前におりますぞ」
「一匹か。それとも、眷族《けんぞく》がとぐろでも巻いてるか!」
「一匹です! 一匹です! どうしたことやら、ブルブルと震えておりますぜ!」
「なんじゃい! 震えているんだとな! ほほう、またこれはちと眼が狂ったようだが、こいつ思いのほかに気味のわるい事件《あな》だぞ。ともかく、雨戸をあけな」
あけさせてみると、いかさま座頭仙市がそりたてのくりくり頭をかかえるようにして、こちらに背を向けながら、じつに必死と震えているのです。しかも、なんたる不審! まったくどうしたというのだろう? ――その震えている向こうの床の間の上には、三本! 五本! 八本! 十本! いや、全部数えたら十七、八本もあるのではないかと思われる刀が、なぞはこれにあり、といわぬばかりに飾られているのです。
名人は発見すると同時に、およそ不審に打たれたらしく、じっとそこにたたず
前へ
次へ
全49ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング