うなのも道理、声の主、姿の主はだれならぬ、われらのあいきょう男伝六でした。つづいてそのわきの下をくぐりぬけながら、まめまめしく飛び出したのは、のどかなお公卿《くげ》さまの善光寺|辰《たつ》でした。だのに、すこぶる不思議、ふたりの太刀《たち》持ち露払いが姿を見せた以上は、当然そのあとに名人右門が、あの秀麗かぎりない面にゆうぜんとあごをなでなで立ち現われるだろうと思われたのに、どうしたことかその姿がないのです。いつまでたっても見えないのです。
けれども、ふたりの者には来ない理由がよくわかっているとみえて、必死に人込みを押し分けながら、岸べまで駆け降りていった様子でしたが、伝六が例の調子で、ガンガンとどなりながらいいました。
「伝馬《てんま》ッ、伝馬ッ。やい! そこの伝馬ッ。何をまごまごしてるんだッ。早くこっちへつけねえかッ」
「べらぼうめッ。おうへいな口ききゃがるねえ! おめえたちやじうまを乗せるためにこいでいる伝馬じゃねえや! こっちへつけろが聞いてあきれらあ!」
「なんだとッ。やじうまたあ何をぬかしゃがるんでえ! 八丁堀《はっちょうぼり》の伝六親方を知らねえかッ」
まことに伝六の名
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