て、また帰ってくる日を待ちましょうにな。――では、そちらの町人衆、お嬢さんたちは三日ばかり神隠しに会ったようだが、無傷で手にもどったんだから、それをおみやげにかたられた罪は水に流してやっておくんなせえよ。じゃ、伝六、辰ッ。それぞれ乗り物を雇って、よく手配してあげな。比丘尼さんは、おかわいそうだが自身番へ届けてな」
手落ちなく手配の終わったのを見届けて、名人は心も今宵は重いもののように、黙然と歩を運ばせました。しかるに、伝六がまたしきりにひねるのです。見とめてうるさそうに一喝《いっかつ》!
「きょうはちっと気がめいっているんだッ。何がわからなくてひねるんだい!」
「いいえね、あっしもそうそうたびたびひねりたかあねえんだが、どうしてまた、だんなが葬具屋の九郎兵衛に行き先の眼をつけたか、そいつが奇態でならねえんですよ」
「うるせえが、いってやらあ。何かにつけて世間のうわさや人のうわさは聞いておくもんだよ。おれもあの妙ちきりんな白封の手紙を見たときゃ、ちっとぞっとしたが、あれこそは九郎兵衛が世間の口にけち九といわれているとんだ大ネタさ。だいじな手紙なんだから、半紙の一枚や二枚けちけちしねえだ
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