い、船頭の権七どのに三両渡して事情を打ちあけ、ゆうべのような手荒いまねをしたのでござります。それというのも、こちらの九郎兵衛様があとのひとりをせきたてなさいましたゆえ、はよう金を手に入れまして、天下晴れてのめおととなりたいばっかりに、つい手荒なまねをいたしましたのが運のつきでござりました。なれども、ただ一つお三方のお嬢さまがたにみだらな指一本触れさせませなんだことだけは、どうぞおほめくだされませ。せめて、それをたった一つのみやげに、くやしゅうござりまするが、男をあとへのこして、地獄の旅へ参りましょう……ごめんなさりませ。ごめんなさりませ」
 小町行者は見せまいとした涙があふれ上がったとみえて、白衣のそでを面におおいながら、よよとそこに泣きくずれました。うち見守って名人は、ややしばしじっと考えこんでいましたが、やむをえまいというもののように、声も重く言い放ちました。
「聞いてみりゃもっと慈悲をかけてやりてえが、とにかくも人ひとりの命をあやめていなさるんだ。河童権に一服盛ったとがだきゃまげられますまいからね、十年ばかり八丈島へでも行っておいでなせえよ。男もそれを知れば、ちったあ情にほだされ
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