……」
「ちょッ、いやんなっちまうな。どういうお気持ちで狩り出したかしらねえが、だんなが発頭でお呼びなすったんじゃござんせんか。九人も十人もの小町娘をいっぺんに見られるなんてことあ、一度あって二度とねえながめなんですよ。やけにおちついていらっしゃらねえで、きょうばかりは近所づきあいに、もっとうれしくなっておくんなせえよ。な、辰ッ。おい、お公卿さまッ」
「…………」
「ちぇッ、のどかなくせに、きどっていやがらあ。寸は足りねえったって、耳は人並みについているじゃねえか。なんとか返事をしろよ」
「だって、このついたてが高すぎて、よく向こうが見えねえんだよ」
「ほい、そうか。高すぎるんじゃねえ、おめえがちっとこまかすぎるからな。じゃ、おれがふたり分|堪能《たんのう》してやるから、気を悪くすんなよ。――ねえ、だんな、ないしょにちょっと申しますが、ついでだからころあいなのをひとり見当つけておいたらどうですかい。あっしゃそればっかりが気になって、毎晩夢にまでも見るんですよ。似合いの小町とこうむつまじくお差し向かいで、堅すぎず、柔らかすぎず、ごいっしょに涼んでいらっしゃるところをでも拝見できたら、どんなにかあっしも涼しくなるだろうと思いましてね。――よッ。いううちに、今はいってきたべっぴん、だんなのほうをながめて、まっかになりましたぜ。助からねえな。おれなんかのほうは、半分だっても見当つけてくださる小町ゃねえんだからね」
 それがまた小声だけに、うるさいことは並みたいていでないので。しかし、名人はただ黙々。集まってきた小町美人のほうへはまったく目もくれないで、何を待つのか、しきりと出入り口にばかり烱々《けいけい》と注意を放っていたようでしたが、と――そのとき、おどおどとしながらうろたえ顔でお白州に姿を見せた者は、裕福らしい町家のおやじふたりです。と見ると、じつに右門流の中の右門流でした。
「よしッ。いま来たふたりのおやじがたいせつなお客だ。あとの者たちは、もう目ざわりだから、引きさがるように申し伝えろッ」
「…………」
「何をパチクリやってるんだ。幾人来たか数えてもみないが、あとの小町娘たちにはもうご用済みだからと申し伝えて、引きさがるように手配しろよ」
「…………」
「…………※[#疑問符感嘆符、1−8−77]」
「血のめぐりのわりいやつだな。いつまでパチクリやってぽかんとしてい
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