うんだ。まごまごしてりゃ、回りきれねえじゃねえか」
「でも、小町娘を狩り出しに行くんだからね、暇があったら男ぶりをちょっと直していきてえんだが――、ええ、ままよ。男は気のもの、つらで色恋するんじゃねえんだッ。じゃ、辰ッ、出かけようぜ!」
 言い捨てると、疾風|韋駄天《いだてん》。のどかなお公卿さまもちょこちょこと小またに韋駄天――。
 見送りながら、名人は道の途中で自身番に立ち寄り、河童の権の始末を託しておくと、胸中そもなんの秘策があるのか、意気な雪駄《せった》に落とし差しで、ただ一人ゆうゆうと八丁堀へ道をとりました。

     4

 かくして、そのあくる朝です。
 ふたりの配下がけんめいに町名主どもへ伝達したとみえまして、申し渡した四ツ少しまえあたりから、いずれもなんのお呼び出しであろうといぶかりながら、遠くは乗り物、近くはおひろいで、それぞれ父親同道のもとに江戸美人たちが、ぞろぞろと名人係り吟味のお白州へ出頭いたしました。かりにこれが尋常普通のあまりおきれいでない女性であったにしても、三人五人と目の前へつぼみの花が妍《けん》を競ってむらがりたかってまいりましたら、よほど肝のすわっている者であっても、ぽうッといくらか気が遠くなるだろうと思われるのに、次から次へと姿を見せる者は、まこと三十二相兼ね備わった粒よりの逸品ばかりでしたので、生来肝のすわっていない伝六がことごとくもう精神に異状を呈して、さすがに小声でしたが、場所がらもわきまえず、たちまちうるさくお株を始めたのはいうまでもないことでした。
「ねえ、だんな! どうです。すっかり世間がほがらかになっちまうじゃござんせんか。これだから、お番所勤めはいくらどじだの、おしゃべり屋だのとしかられましても、なかなかどうして百や二百の目くされ金じゃこのお株は売れねえんですよ。ね、ほらほら、また途方もねえ上玉がご入来あそばしましたぜ。――でも、それにしちゃ、あのおやじめはちっとじじむさすぎるじゃござんせんか。もしかするてえと、もらい子じゃねえのかな。だとすると、これで広い世間にゃ、もらい合わせて跡めを譲ろうってえいうようなもののわかったやつがいねえわけでもねえんだからね、年もころあい、性はこのとおりの毒気なし、ちっと口やかましいのが玉に傷だが、そこをなんとか丸くおさめて、あっしが半口乗るわけにゃめえりますまいかね」
「……
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