なとおっしゃったんだろうね」
「ちぇッ。しょうのねえどじだな。それだから、おまえなんぞ、いつまでたっても背が伸びねえんだよ。知れたこっちゃねえか。道々お小姓姿におやつしなさって、お連れ申し上げたくれえもご遠慮したんだもの、おへやさまの素姓が世間へ知られりゃ、何かとお家の名誉にもかかわるじゃねえか。だからこそ、だんなも一服盛って、早く宗助の野郎をやみからやみへかたづけてほしいと、わざわざお書面をお書きなすったもんだ。もっと食い養生をして、りこうになれよ」
すっかり口まねをして、とんだ説法をしたものでしたから、破顔一笑、腹をよらんばかりにいったのは名人でした。
「偉いところで、今度は伝六兄いが、おれに早変わりしちまったな。思いのほかに変わり方があざやかだから、おめえにも軍鶏駕籠《とうまるかご》を雇ってやろうか」
よき主従のなごやかなやりとりをめで喜ぶかのように、大川渡った初夏の江戸風が、そよそよとさわやかに吹き通っていきました。
底本:「右門捕物帖(二)」春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年9月15日新装第1刷発行
※誤植は、『右門捕物帖 第二巻』新潮文庫と対照して
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