たものでしたから、目をぱちくりさせながら、さっそく十八番もののあいきょうぶりを発揮しだした者は余人ならぬ伝六でした。
「いやにねこめが必死とくわえていたようでしたが、まさかにかつおぶしでこしれえた髪の毛じゃござんすまいね」
「またとんきょう口を始めやがった。このにおいがわからねえのか。鼻の穴を洗い清めて、よくかいでみろよ」
「はてね。――こりゃべっぴんのにおいがするようですが、なんていう髪油でしょうかね」
「次から次へ、よくとんきょう口がきけるやつだな、これが有名な古梅園の丁子油じゃねえか」
「へへえ、この油が丁子油でござんすか。安い品じゃねえように承っておりますが、人形の髪の毛に、なんだってまた、そんなもったいねえまねをしやがったんでしょうかね」
「だから、この髪の毛がただものじゃねえっていうんだよ。それに、もう一つ奇態なことにゃ、このたけ長の表に、女の戒名が書いてあるぜ」
「えッ。どう、どう? なるほどね、瑞心院《ずいしんいん》妙月大姉としてあるようですが、気味のわるい、なんのまじないでしょうかね」
「知りたけりゃ、ねこにきけよ。――おや! 今ここにいたようだっけが、どこへ姿を隠し
前へ 次へ
全58ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング