時でした。じつに意外ともなんとも言いようのないことを、ずばりと名人がいいました。
「人形大尽! 十七、八の島田がつらを一つ用意しておきなせえよ」
「えッ※[#感嘆符疑問符、1−8−78] まだなにかそんなものを用意して、娘の供養をせねばならぬのでござりまするか」
「さようじゃ。ちっとこんどの供養は大金がかかるが、だいじないか」
「金ゆえに失った娘でござりますもの、それで供養ができますならば、いかほどかかりましょうとも惜しくはござりませぬ」
「でも、この近江屋の身上がみんなじゃぞ」
「みんなじゃろうと、どれだけじゃろうと、喜んでさし上げまするでござります」
「すこぶるよろしい! では、あすの朝にでも河岸《かし》へ行って、江戸一番の大鯛《おおたい》をととのえてな、それから灘《なだ》の生一本を二、三十|樽《たる》ほどあつらえておきなよ。そうそう、特にこのことは忘れてはならぬが、これなる次郎松少年は、じゅうぶん目もかけ、いたわってもつかわせよ。こういう賢い奉公人というものは、そういくたりもあるものではないからな」
「なんじゃやらいっこうに解せませぬが、しろとおっしゃれば、どのようにでもいたしま
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