にござります」
第一の手がかりがついたものでしたから、いかでそのことばのさえないでいらるべき!
「油もそちがつけたか」
「いいえ、それがどうも妙なんでござりまするよ。この丁子油のしみた毛束に、そこへ使ってある戒名の書いた丈長《たけなが》を向こうからお持参なさいまして、至急に十七、八歳ごろの人形をこしらえろとのご注文でござりましたので、少し気味がわるうござりましたが、手もとにちょうどその年ごろなのがござりましたゆえ、そのままお言いつけどおりにいたしましてござります」
「いつじゃ」
「つい三日まえでござりました」
「注文先も存じおろうな」
「へえい。吉原《よしわら》の蛸平《たこへい》様とおっしゃる幇間《たいこもち》のかたでござりました」
――いよいよいでて、いよいよいぶかし! 注文主は名まえも奇態な吉原|幇間《ほうかん》の蛸平とありましたから、時を移さず右門の行き向かったところは、九番てがらの達磨《だるま》霊験記で詳しく地勢を述べておきました見返り柳の、あの柳町なる旧吉原です。怪猫のあとをつけていったのもむろんのことでしたが、しかし、伝六というしろものは、およそ罪のないあいきょう者でし
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