ぼっぱつ》いたしました。
2
正確に申しますとちょうど八日の日でしたが、この日は改まって申すまでもなく、釈尊がインド迦毘羅国《かびらこく》の迦毘羅城にご生誕なさった甘茶仏の当日なので、事件は伝六がしびれをきらしているようになかなか降ってきそうもないし、さいわいご奉行所は非番でしたから、主従三人お昼すぎから増上寺のお花|御堂《みどう》の灌仏会《かんぶつえ》に出かけて、ついでのことにおなかへも供養にと、目黒の名物たけのこめしへ回り、なかよく連れだってぶらりぶらり八丁堀《はっちょうぼり》のお組屋敷へ帰りついたのが、かれこれもう夜も二更《にこう》に近い五ツ下がり刻限でした。
と――三人が久しぶりでの遠出にぐったりとなって、そこの座敷へすわるかすわらないかに、咄《とつ》! なんという不敵なやつもあればあるものでしょう――あけ放たれた縁側伝いの暗い庭先から、不意にヒュウとうなりを発しながら一本の手裏剣が飛んできたかと見えましたが、せつなに体をかわした右門の右ほおをあやうくかすめて、プツリうしろのふすまに突きささりました。
「よッ。人を食ったまねをしやがったなッ」
相手もあろうに
前へ
次へ
全45ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング