いかないものとみえまして、せっかく捕物三人|侠者《きょうしゃ》のおぜんだてが、かくのごとくに申しぶんなく整ったというのに、なんともままにならぬことは、どうしたものか肝心の事件のほうがいっこうにその以後持ち上がってこないことでした。それも五日や十日ならよろしいんですが、善光寺辰が一枚わき役に加わると同時で、ほとんど半月以上もまるで事件の訴えが来なかったものでしたから、いつまでたっても伝六はあいかわらずの伝六とみえまして、たちまちあいきょう者らしい音をあげてしまいました。
「ちくしょうめッ、石川|五右衛門《ごえもん》もとんだ二枚舌を使うじゃござんせんか。浜の真砂子《まさご》がどうとやらと、おつに大時代なせりふをぬかしゃがったが、このぶんじゃ悪党の種がつきてしまったかもしれませんぜ」
しきりに五右衛門を罵倒《ばとう》していましたが、しかし、こればっかりは事件のほうで起きてこないかぎり、いかなおしゃべり屋の伝六がしゃちほこ立ちをしたとて、どうにもならないことでしたから、じれじれして待っていると、月を越して四月にはいるやまもなくのことです。突如として、右門畑の怪事件が、不思議な形をとって勃発《
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